それはコロナが世の中に広がりだした2020年9月のことだった。南海電鉄の加藤さんから一本の連絡が入り、内容は南海汐見橋線「汐見橋駅」をこんな時だからこそリニューアルしこの駅からまた大阪が活気づくようにアートを駅舎にいれたいという連絡だった。
レトロ駅舎としてマニアの中ではレアな駅舎となっていた汐見橋駅。下手なリニューアルはマニアの心を悲しませることになるし、何よりそのままがよかったという評価が何より悲しい。私たちは最初に駅舎をしっかり調査し、この駅の歴史を遡ることからはじめた。
進むにつれ壁のクラックなどが邪魔になったり、所有地の関係で作業の日程にもかなりの制限がかかった。歴史的にはその昔この駅が南海電車の出発の駅であり、ここから高野山まで鉄道がつながっていたらしい。出発の駅、その頃の賑わいをなんとしてでも取り戻したい。テーマは決まった「かつて唯一の起点駅であった1900年代頃の賑わい」
いつもなら難航するアーティスト選定だが、このプロジェクトに関しては自分の中で話をもらった時から頭に浮かぶ2名のアーティストの名前があった。
AMISIKIさんと平田沙織さん。大阪のローカルさを大切にしながらもきっとおしゃれで雰囲気のあるものを表現してくれるに違いない。
ただAMIさんは海外在住のため、イメージを伝えていく工程をとにかく大切にしようとメッセンジャーとLINE電話を駆使しながら丁寧にコミュニケーションをとっていった。
AMIさんからのデザインはアイコンとして完璧だった。電車ファンならわかる「南海2230系ワンマン」をモチーフに後ろに見えるのが高野山。そして高野杉のモチーフに水の都大阪らしく波と汐のイメージ。これを正面に配置したいと思った。
平田沙織からもジャズやブルースを感じるテイストのアイデアデッサンがあがってきた。トーンが最高だったのでそれこそセッションのごとくライブでペイントしてもらいながらこれをベースに壁面に描き上げてもらう段取りをとった。
雨が降ったら厄介だなと思っていたがそれも杞憂に終わり、持ち前の晴れ女平田沙織のおかげで一気に作業がすすむ。正面のロゴもシートが貼られていく。
プロジェクトスタートから完成まで約2ヶ月の作業。これだけの速さで仕事が完成したのは単に、このアーティスト2名の力による。仕事の速さもさることながら、こちらの意図と内容を瞬時に理解し落とし込んでいく力とどんどん湧き出るアイデアに脱帽した。
完成のタイミングがちょうど「なにわ区民まつりON祭」と重なるというラッキーな出来事もあり、そのライブ配信でもこの完成式を中継することになった。
この南海汐見橋アートプロジェクトは、汐見橋という出発の駅を新しくリニューアルするという目的のもうひとつ裏側に、今年から南海電鉄に入社が決まった若手の社員達をこのプロジェクトの中心に据えながら進行、南海電鉄の取り組みをひとつでも体感してもらうということをテーマにもっていた。二つの「出発」がかさなりこのプロジェクトは大成功で幕を閉じた。
新聞社さんや各種メディアが取材に来てくれてSNSでも鉄道ファンから概ね好意的に受け入れられ今も汐見橋駅はアートな駅として、様々なファッション雑誌やモデルたちのフォトスポットとなり、若者にも認知される駅となりつつある。
そしてこの壁画には実は隠されたものがあって、弊社のメンバーやCREA/Meの仲間たちをこっそり出演させてくれている。また時間がある方はぜひ探してみてください。そしてこの汐見橋駅アートプロジェクトには、ファンの声をうけてはじまる第二弾のプロジェクトへと続いていくのです。
関連の外部記事
南海電鉄プレスリリース
http://www.nankai.co.jp/library/company/news/pdf/200929.pdf
南海電鉄CSの取り組み
http://www.nankai.co.jp/company/csr/voice/2010_01.html
なんば経済新聞
https://namba.keizai.biz/photoflash/8953/
汐見橋駅WIKI
https://ja.wikipedia.org/wiki/汐見橋駅
岡本亜美/ Ami Okamoto 大阪府出身。京都嵯峨芸術大学卒業。在学中から多くの音楽関係のフライヤーを制作。その後、大阪のデザインスタジオ「真之助事務所」(現・真之助デザイン www.shinn.co.jp )でグラフィックデザインを知る。現在、フリーランスとして活動。デザインの一部としての絵を描き、絵と文字と質感で構成するものが多い。一児の母。制作へのインスピレーションは、音楽、古きもの、いろんな国、子ども、から受けることが多い。今後さらにデザインで新しい試みと面白いことを創造中。
Instagram:@amisiki_design
大阪生まれ。
関西を拠点に絵画作品を発表するかたわらCDジャケットやアパレルブランドなどのアートワークや、飲食店や駅校舎の壁画も手がける。独自の色彩で描かれる人物や風景は、そこに在る日常を「まるで着くずしたファッション」のように魅力的に映し出す。
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